「大いなる沈黙、グランド・シャルトル―ズ修道院」の映画に引き続き、
そんな風に、映画や絵画を観るとき、
衣装や小物、布の質感などを見てしまう。
ヨーロッパやアメリカ映画の歴史ものは、
忠実に衣装を再現しているので、実に興味深い。
イタリア映画の巨匠ヴィスコンティの作品は、
貴族社会を描いたものなら、階級に忠実に、
全てが最上質のもの。
窓のカーテンに至るまで。
「ベニスに死す」に登場する避暑地にやってくるブルジョア階級の、
海辺の普段着の華麗なこと。。。
白とネイビーのストライプをあしらった白いレースのドレス、
レースも遠目にも上質なものばかり、
リネン、シルクなどのまるでアンティークかと見紛うまでの
見事な衣装を揃えていて、
それがふらっと画面を通り過ぎる登場人物であっても、
そこに滞在する人々は全員が上流階級、特権階級という設定なので、
どれを一つ取ってもなおざりにされているものがない。
今の娯楽作品の方が往年の映画よりも莫大な予算が掛かってるだろうけれど、
往年の名画など、細かく見ていると、
どれほどの手間とこだわりが詰まっているかは計りしれない。。。
少し前に観たのが、1965年制作の日本映画の「怪談」(小泉八雲原作)の、
衣装や小物、舞台設定、演出の美しいこと。。。
こういう映画はもう日本では作れないだろうと思う。。。
作品中に登場する市場のシーン。
今は高価な値で取引される日本の麻の反物がいっぱい並べてあって、
見ているうちに欲しい気持ちが湧いてくるほどに。。。
使われている機織りや染めの工房らしきシーンのものも、
時代や道具の考証の確かさも感じて、
本当に名作だなあと感動してしまう。。。
海外映画では、フランス宮廷を舞台にした「宮廷料理人ヴァテール」も、
小道具や衣装が面白い。
ストーリーは、太陽王ルイ14世の時代の僅か数日のお話し。
王が貴族の屋敷に逗留し、その晩さん会を任される野心家の宮廷料理人。
物語は失墜した王の信頼を取り戻そうとする主人に仕える料理人ヴァテールと、
権力争いの貴族ら、王妃の侍女と王との恋の駆け引き、
主人に翻弄される召使たちの悲哀、などなど、様々に入り組んで、
晩餐の趣向を凝らした演出や、食材を調達するために、
まさに名誉と命を懸けるほどの。。。
王や貴族らの招待客らが目にすることのない、
邸の台所、キュイジーヌで働く召使たちの衣装が心つかまれる。
フラックス色のリネンの長いローブのような上っ張り(!)、
エプロンも共布に、袖のカフスはどこまでも長く、
前合わせのボタンは小さいものが幾つも並んでいるのも素敵で。
貴族や王妃や侍女たちの煌びやかな衣装よりも、
料理長ヴァテールや職人達の衣装が気になった。
中世の時代ものの映画は、
リネンのシャツのギャザー使いや、
上着やコートの流れるようなドレッシーなラインが魅力。。。
生地もちゃんと当時存在しているものを厳選していたり。
古今東西を問わず、映画や舞台を見る時は、
必ず衣装と小物をチェックしているかも。。。
ここを雑に扱っている作品は大抵あまり良い作品じゃないことも多い。。。
衣装デザインが有名な映画というと、ちょっと昔の映画になるけど、
「アンタッチャブル」のアルマーニの衣装とか、
「炎のランナー」の衣装も良かった。。。
どちらもメンズ系なのが私好み。。。
ジャン・ジャック・アノーの映画「ラ・マン(愛人)」は、
センセーショナルな描写で話題になった作品だけれど、
戦前のインドシナの繁華街が描かれているシーンが美しい。
小さな路地にひしめきあう屋台や人々の当時の衣装が、
忠実に時代を再現していて、藍染めの長上着や真っ赤なチュニックなど、
当時の衣装を着ているインドシナの人々の姿に見とれてしまう。
屋台もフランス領だったインドシナらしく、
オリエンタルでエキゾチックな、シノワズリなデザイン。
吊るされているランタンの灯に、
照らし出される茶器や陶器の何と風情のあることか。
屋台の食堂の趣味がいいことといったら。。。
マルグリット・デュラスの自叙伝が原作なだけに、
セクシャルな描写が多い映画だけど、
衣装や街の景色の演出が凝っていて、
さすが、アノーの作品だなと。。。
また時代ものの佳作作品を観直さなくちゃ。。。
以前、厳格な修道院を20年以上という長期にわたって交渉し、
ようやく1年を掛けて取材したというドキュメンタリー映画を見た。
『大いなる沈黙へ グランド・シャルトルーズ修道院』
フランスアルプス山脈に建つグランド・シャルトルーズ修道院。
創立以来900年の間、ほとんど変わることのない厳しい生活。
一人一人、個室を与えられて、
日々のほとんどの時間を沈黙と清貧と規律を守り、暮らしている。
(日曜日と祭日だけ談笑することが許される。厳しいー。)
修道院に入ってすぐの修道士に最初に衣服を与えられるシーンがある。
普段の生活で纏うローブやチュニックなどの衣類を賄う係の助修士もいて、
(助修士:修道院での暮らしを支える人達)採寸し、布を裁ち、仕立てていく。
きっと、中世と変わらぬやり方で。
ウンベルト・エーコ原作の「薔薇の名前」の映画
(ジャン・ジャック・アノ-監督、ショーン・コネリー主演)の世界と、
現代でも殆ど変わらないような。。。
厚手のフェルトのようなウールの生成り生地を、
フードつきのチュニックローブに仕立てていく作業も興味深く。。。
シンプルなカタチ、そして小さなポケット、ずっしりとした生地、
縫うこと、仕立てることも助修士の日々の勤めの一つであり、
沈黙のうちに仕立てられていく。
肉厚のフェルト生地のチュニックローブは見るからに重そうで、
それを着用して、ただじっとしたまま祈るだけで修行のようにも感じるけれど、
あの中世から変わらぬ暮らしの、静謐さと清貧の美しさが忘れられない。
ああいうチュニックやローブは暖かそうだなあ、なんて思ってみたり。
修道士の持つかばんや袋にも興味ある。
素朴でいながら、いつも肌身離さず持っていたくなる袋もの、仕立ててみたいなあとも思う。
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