地方の街でわらび餅を売り歩く屋台自動車があるという。
私の生まれ故郷の大阪にも、屋台自動車で「わらびぃ〜餅、わらびぃ〜餅〜」と、
歌をスピーカーから流しながら売るわらび餅屋さんがいた。
今現在もあるかどうかは、数年前に大阪に帰ったときには遭遇しなかったので分からない。
私の実家の前の道をやってくるわらび餅屋さんの音楽はちょっと変わっている。
ベん、ベんベン、となにやら琵琶を鳴らすような音がして、
「わらびぃ〜餅、、、」と歌う音階も妙にマイナー音階なので、
ちょっと不気味といえば不気味に聞こえる。
そして、いつも聞こえてくるのは、もう寝ようかと布団に入っている頃で夜遅くなのだ。。。
なんでこんな時間にわらび餅屋さんがまわってるんだろう。。。
と不思議に思い、後日、近所に住んでいる幼馴染に会った際、
「そういうちょっと変わったわらび餅屋さんを知ってるよね?」と聞くと、
「そんなの見たことも聞いたこともない」と爆笑されてしまった。
大阪出身の東京人にも尋ねてみたりもしたけど、
異口同音に「知らない、こわい、面白すぎる!」という反応。
家族の中でも私以外、みんなわらび餅屋さんのことを知らないと言う。
ふと、そんなことを思い出していたら、
「そういえば、もっと不思議なことがあったんだ」と更に昔の記憶が思い出されてきた。
私が幼稚園にもまだ行っていないような頃、多分、3歳か4歳ころだったと思う。
家の前で遊んでいたら、「わらびぃ〜餅ぃ〜」という声がして見ると、
わらび餅を売るおじいさんが歩いてきた。
興味が湧いて近寄ると、「美味しいわらび餅を食べてみるか?」とにっこり優しいおじいさん。
うん、とうなずくと、木桶の蓋を開けて、中に並んでいた小皿に入ったわらび餅を手渡してくれた。
「食べてごらん、美味しいよ」
ひらたく、ぷるぷるしているわらび餅はやわらかくて、溶けそうなくらい。
一口食べると本当に美味しくて。
大きな平たい木桶にはわらび餅の乗った小皿が4つほど入っていて、
両方の木桶で8皿のわらび餅。
ぷるぷる、ぷるぷるとお皿の上で揺れている。
私がわらび餅を食べている間に、おじいさんはもういなくなってしまった。
手には空の小皿が残った。
家に入って祖母に事の次第を話して「お皿をどうしよう」と言うと、
祖母は「玄関の外に出しておいたら、きっと持っていってくれるよ」と言うので、そのようにした。
翌日、玄関を開けて外を見ると、確かに小皿は無くなっていたので引き取りにきてくれたのだと思う。
あのわらび餅、美味しかったなあ。
と今でもはっきりと思い出されるおじいさんの風情とあの味。
でも、その話をダンナさんにしていたら、
「木桶に入ったお皿のわらび餅って、屋台の自動車で売ってるんじゃないの?」
「違うよ。おじいさんは木桶のたらいみたいなのを両天秤棒で担いでたの」
「えー、そんな江戸時代みたいなの?そんなの普通に考えたらありえないだろう?」
確かに、昭和世代の私だけど、そんな世代とはいえ屋台といえばリヤカーか自動車がメイン。
「あれ?なんでそんな両天秤棒で売り歩いてたんだろう?・・・」
そのわらび餅屋さんを見たのは、その時一回だけで後にも先にも見たことがなかった。
その後、やっぱり近所に住んでた幼馴染に、
「むかーし、天秤棒で売るわらび餅屋さん、いたよね?」と聞くと、
「ええー、そんなの知らないよー」と言う。。。
じゃあ、あれは一体?!
私は子供の頃、いつの時代のわらび餅屋さんに会ったんだろうか・・・??
雰囲気はいかにも優しい好々爺、昔話にでてくるような白いヒゲのおじいさん。
どんな格好をしていたかまでは憶えていない。
鎌倉のこ寿々のわらび餅を食べたとき、おじいさんの売っていたわらび餅に「ちょっと似てるな」と思った。
本当のわらび粉で作ったおいしい味。。。
両天秤棒を担ぐおじいさんと、
それから、何故か琵琶の音色の音楽をかけながら回る屋台自動車も不思議といえば不思議で。。。
また会いたいような、
だけど、本当に会えたら、ちょっと怖いような、
不思議な不思議なわらび餅屋さんの思い出。。。
時々、こんな風に、時代を跨いだような不思議な話がちょこちょこある。。。
また機会があれば。。。